当科のご紹介

ごあいさつ

外科学教授
心臓血管外科部長 四津良平

 近年、心臓血管外科の分野は格段の進歩をとげてきました。1990年代に入り心臓血管外科手術の適応が拡大され、心機能がきわめて不良な症例や重篤な他臓器合併症を有する症例などを取扱うようになると従来の方法を駆使し、長時間かけて手術を行うことが最良の選択であるとはいえない症例も少なくないことが判明しました。このことは低侵襲心臓血管手術が必要であることを意味していました。
 ほぼ時を同じくして、1990年代にはカテーテルによる血管内手術療法に著しい進歩がみられ、直視下手術療法と競合するような治療成績を示すにいたったことが低侵襲手術への転進に対する拍車となったことも否めぬ事実であります。
  内視鏡をはじめとするさまざまな手術器具の発達といったハード面での進歩に加え、手術経験を踏まえた手技の改良によって、より小さな創で手術を行う低侵襲外科手術が、さまざまな領域において確立してきております。たとえば腹腔鏡下胆嚢摘出術は「内視鏡で胆嚢をとる手術」として一般にも広く知られるようになりました。
 心臓外科領域においても低侵襲心臓外科手術、いわゆるMICSの波は1990年代より始まっており、冠動脈手術の分野では、人工心肺を用いない心拍動下冠動脈バイパス手術が年々症例数を増加させています。一方で、人工心肺の使用が必要である心内操作を伴う心臓手術の場合、胸骨を完全には切らず、皮膚小切開で部分的な切開にとどめる方法や肋間開胸による心臓手MICSが行われてきました。
 このMICSに対し、さらなる低侵襲を目指しポートアクセス 手術の手法を心臓外科領域に応用したポートアクセス MICSが確立されました。ポートアクセス手術とは、一つあるいは複数の小切開孔やそこに挿入したportから行う手術と定義されます。したがってポートアクセス MICS とは、従来よりもさらに低侵襲な手術を目指し、より小さな傷で行う手術のことであり、さらに胸骨に切開を一切加えず肋間から手術操作を行う胸骨温存術式のことをいいます。
 この手術の利点は、術後の回復が早く、細菌による胸骨の感染や縦隔炎を減少させ、術後の痛みを減少させるだけではなく、手術創の美容的効果に優れていることです。さらに腎不全などがありリスクが高いと考えられる患者さんに対しても、臓器障害の軽減が期待できるなどの報告も散見されています。
われわれはこれまで230例を超えるポートアクセス MICS による心臓手術を行い、極めて良好な成績を残しており、現在では、ほぼ全国からこの手術を希望されて患者さんが受診されております。
 心臓外科医は、関連する新しい技術の速い進歩に、常に目を向けなければなりません。これからは、これらの技術が心臓外科手術法の一つのオプション、あるいはメニューになって行くことは確実であると思われます。
適確なアプローチで行われた低侵襲心臓手術は、患者さんの精神的な満足感を含めた生活の質の向上と迅速な社会復帰を促進し、それにより入院期間を短くし、病院ベットを効率よく運用するだけでなく、医療費の削減にも通ずる、医療経済にも貢献する新しい医療のアプローチであります。
 今日の時代に、我々が患者さんのために提供し続けている心臓血管外科の医療は、歴史的な先人たちの、偉大な業績の上に成り立っているといっても過言ではありません。
 歴史の蓄積の末、20世紀に花開いた心臓血管外科の進歩の歴史は、時として驚くべき発想と実行力があって、一段と速度を早めました。しかし今、心臓血管外科が形態学的な修復を目指していた時代は終わりを迎え、人工臓器学、臓器移植学、再生医療などを組み合わせつつ、廃絶した臓器不全と闘い、患者の生活の質を向上させ、この社会に再び復帰してもらうことが今日の目的となりました。
現在の進歩はわれわれ心臓外科医の長年にわたる試行錯誤、あるいは辛い経験の積み重ねから得られた貴重な体験と知恵が礎になっています。ポートアクセスMICSのこの蓄積を、サイエンス(科学)に裏打ちされたアート(技術)として患者さんを始め次の世代に伝えていくことこそ、パイオニアであるわれわれの使命です。
 安全・確実にポートアクセスMICSが広く応用され、また本法の手術技術のさらなる習得が、将来の安全な完全内視鏡下心臓手術、ひいてはロボット手術につながるものと考えております。いかなる外科領域においても低侵襲性は医学的必然であると同時に医療経済からみても社会的要請であると考えます。

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