ステントグラフト
ステントグラフトの手術では、鼠径部の大腿動脈から折り畳まれた人工血管を挿入し、X線透視装置を用いて、内側から大動脈瘤をカバーして治療する方法です。
当院では、以前より胸部大動脈瘤に対してステントグラフト(井上式ステントグラフト)を施行してきましたが、2009年8月より、腹部大動脈瘤および胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療を本格的に開始いたしました。現在まで、腹部・胸部併せて5〜8例/月のペースで積極的に施行しております。特に腹部大動脈瘤および胸部下行大動脈瘤に対してはステントグラフト治療を第一選択としております。
3DCT画像:(左)腹部大動脈瘤 術前、 (右)ステントグラフト術後。
当院では、通常ステントグラフト治療では皮膚を切開せず、穿刺にて行なっています。動脈硬化などで血管の状態が悪い場合には、鼠径部を5cm程度切開しての手術となります。そのため、手術後の回復も早く、通常では手術後3〜5日の入院となります。
大動脈瘤の場所が頭部への分枝に近い場合には、ステントグラフト手術の際に、人工血管でバイパスを作成してから(デブランチ手術)、ステントグラフトでの治療を行います。この術式により、以前は開胸手術しか治療方法がなかった患者さんでも、大動脈瘤の治療が低侵襲で行えるようになりました。
3DCT画像:(左)弓部大動脈瘤 術前、 (右) 胸部大動脈ステントグラフト術後。人工血管によるバイパスも行われています。
大動脈解離に対するステントグラフト治療
遠位弓部大動脈から末梢側にかけての大動脈解離(スタンフォードB型の大動脈解離)に対しては、従来は血圧管理による内科的治療が主に行われてきました。近年、B型の大動脈解離に対しても発症してから1年以内にステントグラフト治療を追加することにより、将来の大動脈瘤の発症を予防し、死亡率を含めた予後を改善する効果が明らかになってきました。当院でもこの治療を適応しております。
胸腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療
胸腹部大動脈とは、横隔膜上下の、下行大動脈(胸部)から腹部大動脈にかかる場所のことを指します。この部位には、肝臓や腎臓、胃・小腸といった内臓への血管が大動脈から枝分かれしているため、ステントグラフト治療は行われてきませんでした。開胸・開腹による人工血管置換術では、切開が胸部と腹部に及ぶため、体への負担は大きく、ご高齢の患者さんや肺の悪い患者さんでは手術ができないことも多くありました。
当院ではステントグラフトに特殊な加工を行い、内臓への血管を修復して胸腹部大動脈瘤の治療を行なっております(医師による開窓型ステントグラフト手術)。この技術により、出血量や術後の回復が早く行えるメリットがあります。
3DCT画像:(左)胸腹部大動脈瘤 術前、 (右) 胸腹部大動脈瘤 ステントグラフト術後。
当院は2013年からX線透視装置と手術室が一体となったハイブリッド手術室を運用してきました。新規病棟の建て替えなども経て、現在に至っています。2025年10月に、新しいハイブリッド手術室が完成し、機器も最新のものに更新されました。従来より精密な治療や幅広い手術への対応が可能となり、今後も良い治療をお届けしてまいります。
ステントグラフト治療の注意点
ステントグラフト治療は従来の人工血管置換術と比べて、小切開・低侵襲で行えることが最大のメリットです。従来の開胸・開腹による手術が難しい患者さんにとっての新しい希望であるのみならず、体に負担をかけず低侵襲に治療することにより、「患者さんに早期に社会復帰していただく」という目標を達成するために非常に重要な治療です。
ステントグラフト治療には注意点もあります。一つ目は、大動脈瘤の形や部位により、ステントグラフト治療が困難な場合があります。また、動脈硬化で下半身の血管の状態が悪い場合には、創部が大きくなる場合があります。
二つ目は、手術後に追加治療が必要になることがあります。人工血管置換術では大動脈瘤を切除しますが、ステントグラフト治療では大動脈瘤が残ります。そのため、手術後に大動脈瘤内への血流が残存したり再流入することがあります(エンドリーク)。エンドリークの程度や、大動脈瘤が大きくなる場合にはカテーテル治療を行いますが、困難な場合には人工血管置換術が必要になる場合があります。
当院では、現在までの豊富な経験をもとに様々な工夫を用いることで、通常では治療が困難な患者さんに対しても、安全にステントグラフト治療を行なってきました。また、胸部・腹部ともに豊富な開胸・開腹手術の経験を持っているため、患者さんに安全な治療が行えることを第一に考えて、治療方針の選択においても無理のない適切な選択を行っております。
ステントグラフト治療と人工血管置換術のどちらが適しているかは、患者さんごとに異なります。ご不明な点がありましたら、いつでもお声がけ下さい。
