疾患について

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先天性疾患 弁膜症 冠動脈疾患 大動脈疾患

弁膜症

心臓弁膜症手術

 慶應義塾大学心臓血管外科では弁膜症疾患だけで年間90例を越える手術を良好な成績で行っています。

 特に、僧帽弁に対する手術、とりわけ、僧帽弁形成手術を積極的に行っているのが特徴的で、僧帽弁形成手術数(2010年 43例)は全国でトップクラスの症例数です。そして、その多く(40例)は「小切開心臓手術(MICS・ポートアクセス手術)」を用いた「小さな創で患者さんに優しい」手術で行っております。当院では僧帽弁形成術が可能であうと判断して手術を行った僧帽弁閉鎖不全症例についてはほぼ全例で僧帽弁形成術を完遂できております。これは手術手技に精通しているだけではなく、言い換えると術前検査による僧帽弁の評価が正確であるということも意味します。つまり病院全体がチームとして僧帽弁閉鎖不全の診断・治療に慣れているということであり、患者さんの確実な治療にとても重要なことであります。

 この小切開心臓手術は僧帽弁形成術以外にも、僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁置換術(人工弁置換術)が必要な場合にも適応しており、2010年も小切開心臓手術(MICS・ポートアクセス手術)による僧帽弁置換術を7例施行しました。

低侵襲僧帽弁手術

 慶應義塾大学心臓血管外科の最大の特徴は、「小さな創で患者さんに優しい」手術を行っていることです。1998年に始まった低侵襲心臓外科手術に対する取り組みは、全国の患者様や弁膜症疾患を扱う 先生方から評価され、その症例数は年々増加し、 2010年末までに、515例の小切開心臓手術を 僧帽弁膜症(242例)、心房中隔欠損症(218例)、 CABG、 左房粘液腫などに対して行ってきました。 2010年は僧帽弁形成術40例、僧帽弁置換術7例、心房中隔欠損症19例(三尖弁形成術同時施行手術1例を含む)、心内膜床欠損症1例、左房粘液腫1例、その他1例の合計69例に対して小切開心臓手術を行い、良好な成績を得ました。当院では小切開心臓手術はすでに僧帽弁手術の標準術式として確立されており、小切開心臓手術を安全に施行できない特別な理由(二度目以降の心臓手術である、呼吸機能が悪い、全身の動脈に高度の石灰化がある、など)が無い限り、僧帽弁手術は小切開心臓手術で行っております。

 小切開心臓手術は安全で僧帽弁疾患に苦しむ患者さんに大きな福音となる治療法ですが、残念ながら、この手術を まとまった症例数行っているところは、まだ日本全国で数カ所にしか過ぎません。我々はもっともっとこの方法で患者さんが「優しい手術」を受けられる様になるべきだと考えております。慶應義塾 大学心臓血管外科は小切開心臓手術の草分けとして、全国から患者さんを受け入れるとともに、日本中で小切開心臓手術が受けられるようになることを 目標として、小切開心臓手術の習得を目指す外科医に対する教育や研修にも力を入れています。

心臓弁膜症手術をご希望の方は

 慶應義塾大学病院での心臓弁膜症手術をご希望の患者さんは、岡本一真講師(火曜日午後)の外来を受診してください。

 受診に際しての予約・質問や弁膜症疾患についての相談・質問等については下記までご連絡ください。

連絡先  〒160-0016 東京都新宿区信濃町35番地 
TEL:03-3353-1211 (代表 内線62331), 03-5363-3804 (直通)
FAX:03-5379-3034(直通)
夜間受付電話番号:03-3353-1208
夜間休日連絡先:心臓血管外科当直医PHS:070-6587-0114
e-mail:keio.cvs.2331@gmail.com

心臓弁膜症概説

 一般的に弁膜症の治療は、内科での薬剤による治療から始まります。したがって心臓弁膜症で手術を必要とする患者さんの多くは、循環器専門医から紹介されます。弁膜症といっても心臓には4つの弁膜があります。1つの弁膜だけでなく、同時に2つや3つの弁膜に障害が及ぶことも稀ではありません。これらを連合弁膜症と呼んでいます。症状は、障害された弁により異なります。動悸や息切れであったり、また狭心症のように胸痛であったり、また下肢がむくんだりと様々です。病名としては、以下のようになります。

大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症(逆流症)、
僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症(逆流症)、僧帽弁逸脱症候群、
三尖弁狭窄症、三尖弁閉鎖不全症(逆流症)、
肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁閉鎖不全症(逆流症)、
そして上記の組み合わさった連合弁膜症です。

 その外科手術治療は、2つに大別されます。1つは、罹患した弁膜を人工弁に取り代える「弁置換術」です。「弁置換術」に用いる人工弁には大きく分けて機械弁と生体弁があります。もう1つの治療法は弁膜を修復・形成する「弁形成術」です。患者さんにとっては「弁置換術」よりも「弁形成術」の方が術後の「生活の質」は格段に優れています。ただ全ての患者さんに「弁形成術」が出来るとは限りません。「弁置換術」より「弁形成術」のほうが手術手技は複雑になり、外科医の経験がより必要になります。

 慶應義塾大学病院では、可能な限り弁形成術を行うようにしています。僧帽弁疾患ではポートアクセス手術と組み合わせて積極的に弁形成術を施行しており、術後の超音波検査(心エコー)の評価では極めて良好な結果を得ています。近年、当院では僧帽弁閉鎖不全 (MR)に対する形成術として、premeasured Gore-Tex loopを用いた人工腱索再建を行っており、高い評価を得ています。

 このように弁膜症の治療には内科的治療も含め,それぞれの患者さんに一番良い治療方針を立てることが重要で、手術をするにしても、その時期などを当院循環器内科と共に相談して治療方針を決めています。

僧帽弁形成術

 僧帽弁形成術とは文字通り僧帽弁を形成する手術です。つまり弁置換術と異なり、自己の弁を温存し、それを切ったり貼ったりすることによって逆流や狭窄を治す技術です。もしこれが出来るとなると、この上なく患者さんにとってのメリットとなります。手術の効果が弁置換術と同等であり、かつ人工弁に関係する合併症の心配がないからです。ただ全ての患者さんに「弁形成術」が出来るとは限りません。「弁置換術」より「弁形成術」のほうが手術手技は複雑になり、外科医の経験がより必要になります。

 当院で行っている僧帽弁形成術として、pre-measured Gore-Tex loopを用いた人工腱索再建を行っています(Loop-technique)。本法はGore-tex糸を用いた腱索再建の難点である人工腱索の最適な長さの決定とGore-tex糸の結紮時の滑り易さを解決する方法として有用であるばかりでなく、全く弁尖切除を行わないため再建部位の生理的な運動の温存と有効な弁口面積の確保が可能です。このLoop-techniqueによって従来は自己温存が難しかった複雑な僧帽弁閉鎖不全症例に対しても安全に弁形成術が行えるようになり、一般的に僧帽弁形成術が難しいとされる、僧帽弁前尖の逸脱症例に対しても形成術を標準手術として施行しています。

従来の弁形成術 当院で行っているpremeasured Gore-Tex loopを用いた人工腱索再建 逸脱部位近傍の正常弁尖の腱索長を参照してループの長さを決定します。


大動脈弁形成術

 大動脈基部の拡大を伴う大動脈弁閉鎖不全症に対して、積極的に大動脈弁温存大動脈基部置換術(David手術)を行っています。また、大動脈基部の拡大を伴わない症例においても弁尖の破壊や変性が進んでいないような症例についても大動脈弁形成術を行っております。

大動脈弁置換術・僧帽弁置換術・機械弁による弁置換術

機械弁を用いた僧帽弁置換術

 機械弁はすべて人工の材料から構成されている弁で耐久性に優れており、一度の弁置換で生涯使用できる可能性があります。現在主流な機械弁は二葉弁といって、主にパイロライトカーボンという材料でできた半月状の二枚の板が蝶の羽のように開閉する構造をしています。機械弁の注意すべき点は、抗凝固療法を必要とするところです。患者は、毎日生涯に渡って抗凝固薬「ワーファリン」を内服して血液の凝固機能を抑える必要があります。抗凝固薬の調節が不良な場合、血栓栓塞症を起こしたり出血傾向になることがあります。機械弁を移植される患者さんはこの抗凝固薬を毎日内服できる事が条件になります。ワーファリンは胎児に悪い影響を及ぼすことがあると同時に、出産時に大量出血する可能性が高いため、妊娠する可能性がある女性には原則使用できません。また、血液の病気などで出血しやすい人にも使いにくい薬剤です。これらのことを考慮した上で機械弁は選択されなければなりません。

生体弁による弁置換術

生体弁(ステントつき)
生体弁(ステントなし)
ホモグラフト

 生体弁は「異種生体弁」、「同種生体弁」、「自己生体弁」の3種類に分けられます。このうち自己生体弁は正確には「人工弁」ではなく、「ロス手術」という自分の肺動脈弁を大動脈弁に移植する特殊な手術で用いられるものです。また同種生体弁は「Homograft(ホモグラフト)」と呼ばれ、ヒトの死体あるいは脳死体から摘出した弁を凍結処理したもので、我が国では保険適応はなく入手経路も特殊です。当院では重度の人工弁感染性心内膜炎などに使用し良好な成績を得ています。よって以下は「異種生体弁」についての解説となります。

 生体弁にはステント付きとステントレスがあります。ステントというのは弁における支柱のようなものです。現在日本で使われているステント付き生体弁は、ウシもしくはブタの心膜を利用したもので、心膜が開いたり閉じたりする弁膜の部分となり、それを支えるステントは人工物から出来ています。心臓に縫いつける、縫いしろの部分も人工線維から出来ています。

 一方、ステントレス生体弁とはブタの大動脈弁を加工したもので、ステントと呼ばれる支柱の部分がないものです。ステントレスの最大の利点は、固い部分が無く弁の柔軟性が保たれ、より生理的であるという点です。また人工部分が少なく、弁の耐容性が優れていることも利点の一つです。

 さてステント付きであれステントレスであれ、いずれにせよ弁膜の部分が生体で出来ているため、生体弁は抗血栓性に関して機械弁より勝っています。一般的には手術後3ヶ月ほど抗凝固薬「ワーファリン」を服用し、それ以後は内服の必要はないため、ワーファリン内服による煩わしさや出血のリスクから解放されます。一方、問題点は機械弁と比較して耐久性が劣ることです。そのスピードには個人差はありますが、時間とともに生体弁は劣化し、固くなったり、穴が開いたりします。かなり改良が加えられてはいますが、10年から15年、長くても20年が耐用期間です。一般的に、若い人ほど劣化のスピードは早く、高齢者ほど遅いとされています。また、透析をしている患者さんは、弁に石灰が沈着しやすいといわれています。長年の間に劣化がおきたときは再手術が必要となるため、 これらの生体弁は抗凝固療法が行えない症例や、高齢者、生涯に渡って毎日抗凝固薬を内服する生活が嫌だと言う患者さんに使用されます。一般に65歳以上の人が生体弁の適応となります。 また若年女性で妊娠希望のある場合は生体弁が選択されます。

 弁置換術の際の人工弁の選択について 以上の様な一応の基準はありますが、 まだ絶対的な基準というものはありません。慶應義塾大学病院では機械弁と生体弁のどちらを選択するかについて、患者さんの年齢、ライフスタイルそして患者さんのご希望にあわせて、十分お話しさせて頂いた上で決定させて頂いております。どうぞ安心してご相談ください。

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