低侵襲僧帽弁形成術【小切開心臓手術(MICS・ポートアクセス手術)】

慶應義塾大学心臓血管外科の最大の特徴は、「小さな創で患者さんに優しい」手術を行っていることです。1998年に始まった低侵襲心臓外科手術に対する取り組みは、全国の患者様や弁膜症疾患を扱う先生方から評価され、その症例数は年々増加し、2010年末までに、515例のポートアクセス手術を僧帽弁膜症(242例)、心房中隔欠損症(218例)、CABG、左房粘液腫などに対して行ってきました。2010年は僧帽弁形成術40例、僧帽弁置換術7例、心房中隔欠損症19例(三尖弁形成術同時施行手術1例を含む)、心内膜床欠損症1例、左房粘液腫1例、その他1例の合計69例に対してポートアクセス手術を行い、良好な成績を得ました。当院ではポートアクセス手術は僧帽弁手術と心房中隔欠損症手術の標準術式として確立されており、ポートアクセス手術を安全に施行できない特別な理由(二度目以降の心臓手術である、呼吸機能が悪い、全身の動脈に高度の石灰化がある、など)が無い限り、これらの手術はポートアクセス手術で行っております。


小切開僧帽弁形成術の手術風景

小切開創(Key hole)

小切開僧帽弁手術の跡


総計 730例

わずかな傷跡で手術を行うポートアクセス手術

以下のリンク先では、ポートアクセス手術を受けた患者さんのインタビューや詳しい情報を見ることができます。

ポートアクセス手術をご希望の方は

慶應義塾大学病院でのポートアクセス手術をご希望の患者さんは、工藤樹彦准教授(金曜日)、岡本一真講師(火曜日)の外来を受診してください。受診に際しての予約・質問や弁膜症疾患についての相談・質問等については下記までご連絡ください。

連絡先  〒160-0016 東京都新宿区信濃町35番地 
TEL:03-3353-1211 (代表 内線62331), 03-5363-3804 (直通)
FAX:03-5379-3034(直通)
夜間受付電話番号:03-3353-1208
夜間休日連絡先:心臓血管外科当直医PHS:070-6587-0114
e-mail:keio.cvs.2331@gmail.com
お問い合わせメールフォームはこちらからどうぞ

低侵襲心臓外科手術(ポートアクセス法)について

はじめに


伝統的に行われている胸骨正中切開


ポートアクセス法による僧帽弁手術のアプローチ。右第4肋間の小切開創(Key hole)から僧帽弁形成術を行っている。

心臓外科手術では胸部前面中央にある胸骨を縦に切開し心臓に到達する胸骨正中切開法が標準的術式で、ほとんどの症例で用いられてきました。この方法では喉元からみぞおちにいたる20cmほどの切開を必要とします。このような大きな切開を必要とする理由は、心臓手術自体の手術視野を得る必要があることと同時に心臓を安全に停止させ手術中に心臓を保護する体外循環操作のためにスペースが必要だからです。

"Port-access Surgery"とは、「単一または複数の小切開、または'port(s)'から行う外科技術」の総称名で、「広い範囲の外科手術に応用できる技術」です。歴史的には,1997年チトウッドらの右小開胸での内視鏡下手術が,現在のポートアクセスMICS手術の幕開けと考えられますが、慶應義塾大学病院でも同年よりポートアクセス MICSを開始しました。Port-access cardiacsurgery(ポートアクセス法による心臓手術)は、心臓における"Port-access Surgery"でありMinimally Invasive Cardiac Surgery: MICS(低侵襲心臓手術)の一つであります。それは胸骨切開を行なわず、肋間から心臓に到達して、心臓手術を行なうものです。近年の手術器具と医療材料の進歩により、小さな切開から心臓手術を行う低侵襲性心臓外科手術はより安全にそして確実に手術を行えるようになってきましたが、まだ、どこの病院でも受けられる手術ではなく、世界でもまだまだ限られた病院、限られた心臓外科医にしかできない特別な手術であります。慶應義塾大学病院はこれまでもポートアクセス手術により低侵襲心臓手術を推進してきましたが、今後もさらに、低侵襲心臓外科の国際的な拠点となるべく世界中の最高峰の心臓外科施設と情報を共有し、低侵襲心臓外科の世界のトップランナーであり続けたいと考えております。




僧帽弁形成術の完成写真
高画質内視鏡による良好な視野のも と、
複雑な僧帽弁病変に対しても
確実な僧帽弁形成術が可能です。


心房中隔欠損症手術の術中写真

Amplatzer を用いたカテーテル治療が不可能なタイプの病変に対しても、自己心膜 を用いて確実な欠損孔閉鎖が小さな傷で施行できます。

ポートアクセス手術のメリット

このように難しい技術を必要とするポートアクセス手術ではありますが、患者さんにとってとても大きなメリットのある手術であるからこそ、我々はこの手術を先頭に立って進めて来ました。低侵襲心臓外科手術では、皮膚切開は5〜7cmと従来の半分以下とし胸骨は全く切開しません。その小さな切開口から心房中隔欠損孔の手術や僧帽弁の人工弁の置換や形成術を行います。現在は、従来の体外循環システムを利用し、小切開口から心停止、心筋保護を行っています。ポートアクセス法はこの体外循環を低侵襲心臓外科手術に合わせ、安全性を保って侵襲性を軽減し患者さんの負担を軽減することを目的としています。また小さい切開から内視鏡の補助下で手術を行うことにより、良好な視野を得ることが出来、複雑な僧帽弁病変に対する手術においては、胸骨正中切開による手術視野・操作よりもポートアクセス法による視野・操作の法が良好であり容易であり、ポートアクセス法のほうがより確実な僧帽弁形成術を施行できると考えております。

ポートアクセス法による心房中隔欠損症及び僧帽弁手術

a.麻酔と体位

全身麻酔下に右内頚静脈より中心静脈カテーテルなどを挿入します。体位は右側臥位または仰臥位で、経食道心エコープローブの挿入を行ないます。手術の皮膚消毒と滅菌ドレープは、万が一、ポートアクセス法が困難であると判断した時に胸骨正中切開ができるように準備します。

b.皮膚切開

第4肋間開胸(もしくは第3肋間開胸)により手術を行います。皮膚切開は右乳頭下の通常第4肋間における約5cmの切開で行ないます。女性患者では術前に起立した状態で右乳房の下縁にマーカーラインを付けておき、そのラインを切開線とします。これで、創は下着の下に隠れる上、左右乳房の変形・歪が生じず術後の美容的な観点から優れた結果を得ています。

c.人工心肺

人工心肺の回路は末梢からの体外循環で行います。通常右大腿静脈から1本の脱血カニューレ(1本脱血)を経皮的に挿入し、脱血カニューレ先端を上大静脈にまで経食道心エコーのガイド下に押し進めます。もちろん2本脱血が必要であれば前もって右内頚静脈に留置した5Frのシースを用いて経皮的に挿入(通常18Frの送血カニューレを脱血用に代用)する場合もあれば、上大静脈に脱血カニューレを直視下に挿入することもあります。送血カニューレ(通常18または20Fr)はカットダウンによって大腿動脈に挿入します。この人工心肺確立後に心房中隔欠損症及び僧帽弁の手術を行います。


ポートアクセス法で期待される利点と問題点

 ポートアクセス法の導入により従来の心臓外科手術に比べて手術侵襲を軽減することが可能になります。外科侵襲の軽減は、手術創が小さくなるという美容的な面と共に早期退院と医療費削減に貢献すると期待されています。ただしより小さな傷で手術を行うということは、術者にとってはより狭小な視野で手術を行うことを意味します。このような狭小な術野での手術を可能にしているのが、内視鏡画像機器の進歩による高画質の内視鏡補助であります。すなわち術者以外は術野が直視できないため、内視鏡補助下にTVモニターに手術操作中の部位をリアルタイムに映し出すことで手術の状況が把握でき、的確なアシストが行えるとともに、手術の方針をディスカッションすることが出来ます。またポートアクセス手術では、心臓までの距離も遠く、指も届かないため、使用する鉗子類、カニュラ、鈎などさまざまな器具が開発、改良されるとともに、人工心肺操作、大動脈遮断法などに対する新たな手技が開発されてきています。

本法の合併症とその頻度

ポートアクセス法に用いる手術器具はポートアクセス法を目的として開発された特別な手術器具を用います。それら手術器具の使用には習熟が必要ですが、当院ではポートアクセス法の心臓手術はトレーニングを受けた医師がおこなっており、現在では通常の手術器具と同じように扱えるほど習熟度が高まりました。当院でのこれまでのポートアクセス法515例の経験(2010年12月末現在)で、この方法を始めた初期の数例が手術操作に困難があり、通常の胸骨正中切開の手術に変更されましたが、術前診断、症例の選択、技術の習熟・進歩、手術器具の開発により胸骨正中切開に変更した症例は近年ではありません。この連続した515例の手術成績は、2例の手術死亡を除き、良好な結果を残しています。ポートアクセス手術において最も懸念される合併症は人工心肺の確立のために大腿動脈・静脈からカニュレを挿入するために起こりうる腸骨動脈・静脈の損傷や、逆行性送血による大動脈解離ですが、現在では人工心肺操作法の習熟や安全にポートアクセス法が施行できる症例の選択が確実になったため、このような合併症はまず起こらないと考えております。

ポートアクセス法で困難になったらどうするの?

ポートアクセス法で安全な手術操作が確立できない場合は、速やかに従来の胸骨正中切開の手術方法に変更します。本術式ではカニューレ以外の人工心肺装置(人工肺やポンプ)は従来の形式と全く同一ですので、移行に伴う操作は容易です。

手術費用

ポートアクセス法での手術費用については特に従来の手術費用と変わりありません。高度な技術を要する手術ですが、手術費用は通常の胸骨正中切開の費用と同じです。健康保険が適用されますので健康保険の範囲で手術が受けられます。

慶應義塾大学病院におけるポートアクセス法で行った心臓手術の経験

2010年末までに、515例のポートアクセス手術を僧帽弁膜症(242例)、心房中隔欠損症(218例)、CABG、左房粘液腫などに対して行ないました。2010年は僧帽弁形成術40例、僧帽弁置換術7例、心房中隔欠損症19例(三尖弁形成術同時施行手術1例を含む)、心内膜床欠損症1例、左房粘液腫1例、その他1例の合計69例に対してポートアクセス手術を行い、良好な成績を得ました。在院期間に関しては、平均8日で退院されるか転院して心臓リハビリを行って頂きました。就業についてみると帰宅後16日でデスクワークに、また帰宅後21日で大工仕事などの肉体労働に就いていました。これら患者さんへのアンケートをみますと低侵襲心臓手術(MICS)手術への満足度は非常に高いです。

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