臨床留学体験

済生会横浜市東部病院心臓外科
吉武 明弘

留学施設: Chiang Mai University, Department of cardiovascular surgery (Chiang Mai, Thailand)
留学期間: 2008年4月~2009年9月(1年6か月)  留学に必要だった資格: 日本医師免許  留学中の立場: clinical fellow
留学施設の特徴: 年間症例数 約1000例  留学中の経験症例数: 術者 約150例 / 第一助手 約450例

体験談

1998年、慶應大学を卒業し、一般外科を3年間ローテーションしたのち、慶應大学心臓血管外科教室に入局しました。2005年、チーフレジデントを終えた年、モナコハートセンターに留学させてもらいました。ヨーロッパの留学なので、基本的には第一助手でしたが、初海外ということもありどのオペにはいっても興奮し、毎日が充実した留学でした。日本に帰国し、東京医療センターで働くことになりましたが、海外とのシステム、オペの違いや症例数の少なさ、人間関係等でかなり辛い日々を送っていたところ、2007年春に教授から‘チェンマイ大学に留学できるかもしれないけど、どう?’という電話がありました。これはlucky!と思い、その場で行きたいです、と返事しましたが実際チェンマイがどこの国かも知らず、タイとわかってもタイのイメージは海であったのに、実は山の中だったりしてがっかりしましたが、とりあえずその年の夏見学に行くことにしました。見学に行ってみて、Prof.Weerachaiのオペの上手さ、人柄に魅了され、その場で‘来年の春から来たいのですが、’ということになり、2008年4月よりチェンマイに来ることになりました。

チェンマイは北タイに位置し、タイ第二の都市といわれています。寒い時期でも昼間は半袖ですごせるほど一年を通して温暖な気候(時に暑すぎる)のため、日本人や西洋人の定年後のロングステーヤーに人気の都市となっております。

僕の留学したChiang Mai Univ.は北タイで唯一の心臓外科を有する病院で、患者は北タイ全域、あるいは周辺諸国(ビルマやラオス)からも手術を受けに来られます。 ここでは年間1000例ほどの手術をスタッフ4人とレジデント3人+僕で行っていました。レジデントは3人いますが、大抵1人か2人は他の病院や循環器などをまわっているので、一人か二人しか残りません。基本的に手術はスタッフとフェローの二人で行うので、第一助手or術者になり、週10件ほどの手術に入れます。最初からカニュレーションやSVG,RA採取をやらせてもらい、次にASDや単弁置換、2弁やCABGをやらせてもらえますが、最初のうちはスタッフが前立ちをやってくれましたが、そのうち症例によってはレジデントや一般外科のレジデントがオペに入れるときは彼らを前立ちにやることになります。ここでは1人立ちすることに教育の主眼が置かれていることもあり、レジデントは看護婦さんを前立ちにカニュレーションを一人でやっていますし、実際最年少スタッフは30歳そこそこの若手ですが、年間200例以上、どんなオペでもレジデントを前立ちにこなしています。また、特に小児班や動脈班などに分かれておらず、どのスタッフも小児から解離まで、全てをこなしております(教授は今では小児はやりませんが、)。タイではいまだASDやRheumatic なM弁などの手術が多くあり、若手心臓外科医のトレーニングとしては最高の環境でした。

日常生活は、朝7時よりICUから回診が始まり、週2日は8時からカンファレンス、9時半頃から手術となります。大抵の手術は3,4時間で終わるので、午後から2件目をやり、夕方には手術終了。当直はレジデントがやるので、家に帰ることができます。オペ室やICUでは皆タイ語で会話しますが、スタッフは皆留学経験がありますし、看護婦さんも英語がかなり話せるので、僕の場合は基本的には英語で話していました。回診の時など患者さんからタイ語(北タイの方言らしい)で話しかけられますが、何を言っているのか全然分かりませんでしたが、優しいタイ人、怒ったりしません。

またレジデントはほぼ毎週Journalカンファレンスで発表させられ、皆勉強熱心です。新しい知識や技術をどんどん実際の臨床に取り入れようと皆非常にActiveで、東南アジアのパワーを感じ、刺激を受けます。

生活面ですが、多分一番これがネックだと思われますが、確かに東南アジアの気候、風土、食事に合わない人はいますし、そういう人には不向きかもしれません。幸いにも僕の場合はこの暑さや香辛料の効いた料理に馴染むことが出来たために、居心地の良い生活になりました。そして、家族もまた大変この土地を気に入り、楽しんで生活することができました。また、タイ人は微笑みの国というだけあって皆明るく、また親日家なので人間関係で苦労することはあまりありませんでした。ただ、熱帯病などに関しては、さすがに気をつけなければいけないかもしれません。マラリアなどは都市部では見られないらしいですが、食中毒やデング熱などの感染症はかなり多いと聞きます。僕自身、タイに来て2ヶ月目に出血性デング熱に罹り入院した時にはとんでもないところに来てしまったなあ、と思い日本に帰りたくなりました。

治安ですが、昨年バンコクで空港閉鎖や暴動が起こりましたが、ここチェンマイでは全く危険な感じはしませんでした。小都市ですし、ここでは以前よりあまり政治的な対立はないようです。周りの日本人でも、危ない目にあったなどという話しは聞いたことがありません。比較的治安は良いほうだといわれています。

現在の日本の若手心臓外科医のとりまく環境は非常に厳しく、十分なtrainingを行える施設はかなり限られています。せっかく情熱と希望を持って心臓外科に入局しても満足するだけの修練が行えず辞めてしまう優秀な若手医師が多いのは非常に残念なことに思います。海外で臨床を行うということは、言語や風習、生活面他さまざまな点で辛いことは多いです。ただ、僕にとって2度の留学により様々な国の医師に出会い優秀な外科医の生きざまを見られたこと、skill up、多くの友人ができたこと、そしてなにより心臓の手術は面白い、と再認識できたことは今後の外科医を生業とする上で欠くことはできない経験となりました。チェンマイとの交流は僕の帰国後も後輩が留学に行ったり、大学同士が提携したりと、深い結びつきが出来上がってきております。僕の同期やまわりの学年もほとんどの医局員は海外留学を行っており、僕自身2度も勝手を言って海外に行かせてもらいましたが、海外留学に対し寛容、というか推奨してくれる教授、スタッフに感謝しておりますし、これからもどんどん若手の医師が海外留学をして様々なことを学んで持ち帰ってきたほしいと思います。

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